裏腹王子は目覚めのキスを

子どもたちは好きなお寿司の取り合いをして、母親たちは周りに気を配りながらも世間話を楽しんでいる。
そうやって、時間は賑やかに過ぎていった。
 
しばらくすると、室内に落ち着いた空気が流れはじめた。賑やかだった子供たちが早々に食事を終え、隣の部屋に行ってゲームを始めたからだ。
 
空になったお皿を台所に重ねていると、おばさんが冷蔵庫の中から大きなタッパーウェアを取り出した。
フタが開いた瞬間、ほの甘い香りが漂う。苺ジャムを使った、おばさん特製のストロベリーババロアが、容器のなかでぷるんと震える。

「わ、美味しそう」

「羽華ちゃんもコレ好きだったわよね」

「はい、大好き」
 
子どもの頃、桐谷家に預けられたり、遊びにきたりしたときにおやつで出されたこのババロアが、わたしも桜太も大好物なのだ。

「これの作り方も教えるわ。統吾が好きなのよ。あっちで作ってあげてくれない?」

「ええ、もちろん」
 
にやっと笑ったおばさんに笑顔で応えて、わたしはテーブルに目を向ける。
 
空いた食器をさげている母親と、お酒を飲んでいるおじさん、それから圭吾くん。トーゴくんの姿は見えないけど、おそらく外で一服しているのだ。
 
煙草をたしなむ王子様は、普段、甘いものを食べない。でもおばさんの作るチーズケーキやババロアはちいさい頃から親しんだ味のせいか、好きみたいだ。
 
トーゴくんの誕生日に出したイチジクのチーズケーキも、おばさんに教わったレシピでつくったものだった。

「それにしても、羽華ちゃんには本当に面倒かけちゃって、ごめんなさいね、うちの馬鹿次男が」
 
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