裏腹王子は目覚めのキスを
荷物を受け取ってから空港内で両替をすませ、わたしたちは英語の案内表示に従って建物の外に出た。
そのとたん、むっとした空気に包まれる。
現地時間の10月17日、午前7時。
日本より1時間遅れの誕生日の朝。
世界はまだ起きたばかりなのに、すでに太陽熱で蒸されたみたいに空気が湿っていた。
鼻腔をくすぐるのは、独特の甘いような酸っぱいような匂いだ。
これが東南アジアの匂いなんだ、と思った。
なんだか、夢の世界にいるみたい。
「さ、これからフェリー乗り場に行かないと」
アロハシャツ姿の健太郎くんが、ガイドマップを取り出してきょろきょろとあたりを見回す。
空港に沿って伸びるロータリーを歩くと、タクシー乗り場はすぐに見つかった。
「タラメラ・フェリーターミナル、プリーズ」
健太郎くんがガイドブックを見せながら言うと、清潔そうな半そでの襟付きシャツを着た運転手は短くうなずいた。
タクシーは思ったよりもきれいでエアコンも効いていた。
電子メーターの数字をぼんやり見てから、わたしは車窓の景色に目を移す。
外には緑が多く、空港の傍だからか、高い建物はほとんど見当たらない。
少々効きすぎの冷房に身体を縮めながら、窓の外を眺めていると、
「どうしたの?」
健太郎くんに声をかけられた。