裏腹王子は目覚めのキスを
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ビンタン島まではフェリーで1時間もかからなかった。
到着したターミナルでビザの手続きをし、入国審査を受ける。
各国の出入国スタンプに、インドネシアのビザ。
真っ白だったパスポートに自分のたどった道筋が残っていって、なんだか気持ちが高揚した。
でも、それだけだった。
外国の地に降り立ったという感慨は湧くのに、旅行に来ていることの実感はない。
ただ風に運ばれて流れ着いただけみたいに、どこにも自分の意思が見当たらない。
ビンタン島はあいにくの曇り空だった。
フェリーターミナルから外に出ると、やっぱり空気は湿っている。
目の前のロータリーにはヤシの木が立ち並んでいて、一台の古いマイクロバスが停っていた。
健太郎くんが運転手らしき男性にガイドブックを見せると、彼はなまりの強い英語で何事かをしゃべり、乗れ、というようにジェスチャーをした。
どうやらこの車が宿泊を予定しているリゾートホテルの送迎バスらしい。
健太郎くんと乗りこむと、マイクロバスはわたしたちのあとに欧米人のカップルを一組乗せ、アスファルトの道路を走り出した。
あたりには何もなかった。
本当に、なにもない。
フェリーターミナルを出てしまうと、人工物と思われる建物は一切視界から消えた。
まだまだリゾート開発が進んでいない穴場の島だ、と言っていた弟の声を思い出す。