裏腹王子は目覚めのキスを

奥のほうに行けば民家もあるのかもしれないけれど、ここの景色はただ、草が生い茂った土地の真ん中を二車線の道路が一本まっすぐ突っ切っているだけだった。
右手を見ると、遠くに海が見える。
 
島だ、と思った。
 
とうとう目的地に着いてしまった。
 
車内には車の走行音が流れているだけで、一番後ろに座ったカップルの話し声が筒抜けだった。

英語で内容はよく分からないけれど、あまやかな声色や楽しげな笑い声から、ふたりの親密な様子が伝わってくる。
カップルの旅行としては、もちろんそれは正解だと思う。
 
わたしと健太郎くんのあいだには、そういう空気が一切流れていない。

彼は無表情のままだし、わたしは黙り込んだままで、喧嘩をしているのではないかと疑われそうなほど、ふたりのあいだには会話がなかった。
 
わたしは周りからどう思われているかなんて構っていられないくらい、焦りはじめていた。
 
朝は小さかった警鐘が、窓の外の景色に触発されたみたいに、どんどん大きくなっていく。
 
わたし、本当にここにいていいの――?
 
そんなふうに思っても、マイクロバスはスピードを上げていく。
 
前を行く車もなければ対向車両も見当たらない。
だだっ広い荒野を疾走するチーターみたいに、汚れたマイクロバスはぐんぐん島の奥に向かっていく。

「ねえ、羽華子」
 
突然手を握られ、わたしはびくりと肩を震わせた。
 
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