裏腹王子は目覚めのキスを

代わり映えのない景色の中をマイクロバスは進んでいき、単調なエンジン音に揺られること三十分、わたしたちはホテルに到着した。
 
車を降りた一行を出迎えてくれたのは、民族衣装で着飾った女性たちのウェルカムダンスだ。
 
欧米人のカップルが歓声を上げて記念撮影をしているのを尻目に、健太郎くんはさっさとフロントに向かっていく。
 
そこは開放的な空間だった。
壁もドアもなく、車を降りた瞬間、ロビーラウンジから奥のレストランスペースまで見渡せてしまう。

ロビーは天井が高く、ログハウス風の梁がいくつも渡されていて、南国らしくシーリングファンが設置されていた。

「部屋は無理みたいだけど、ロビーとかレストランではWi-Fiが入るらしいよ」
 
健太郎くんはそう言って、フロントで受け取ったカードキー2枚のうちの1枚をわたしによこす。

「2405室だって。行こう」
 
ポーターのお兄さんに案内されて、わたしたちは広いホテル内を進んでいった。
 
空港に着いたときよりも気温が上がっているようで、むしむしとした暑さが肌にまとわりつく。
はじめての場所に、わたしはきょろきょろとあたりを見回した。
 
通路脇からヤシの木や南国の花が顔を出し、渡り廊下からは緑の芝が植えられた広い庭園と大きな屋外プール、その向こうに海が見渡せる。
 
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