裏腹王子は目覚めのキスを
外と中をはっきりと隔ててしまう日本のホテルとは違い、ここでは自然と風と建物が渾然一体となっている。
希薄だった現実感が、潮の香りと野鳥の声に、じわじわと輪郭を結んでいく。
すると不思議なことに、前を行く健太郎くんのずんぐりとした背中が、まったく知らない誰かの後ろ姿に見えた。
部屋に案内されポーターがいなくなると、健太郎くんはどすんとベッドに腰を下ろした。
アジアンテイストの家具に囲まれたツインルームは、バルコニーが海側に面している。
誰かが同じ部屋にいると眠れないという健太郎くんも、さすがにツインベッドで妥協したらしい。
「お腹すいたな。レストランで昼食にしよう」
「あ、うん」
「食べ終わったら、結婚式するよ」
バルコニーに続くドアを開こうとしていたわたしは、会話の流れに大きな引っ掛かりを覚えて立ち止まった。
「……え?」
健太郎くんはベッドに座って足をぶらぶらと動かし、無表情なまま言う。
「言ったでしょ。サプライズだよ」
ドッと、心臓をカナヅチで打ち付けられたような衝撃が走った。
目を見開いているわたしに、彼はどこか得意げに続ける。
「ウェディングプランっていうのに申し込んであるんだ。ドレスのレンタルも込みだから、羽華子は何も心配しなくていいよ」