裏腹王子は目覚めのキスを

なんだろうさっきから。
もやもやと、胸に濃い霧が立ち込めていく。
 
いつも正しいと思っていたはずの健太郎くんの言葉が、心にまっすぐ入ってこない。霧に阻まれ、屈折して、ひどく歪んで見える。

「でも、わたしまだ――」

「しつこいなぁ。人がせっかく羽華子の誕生日のために手配したのに」
 
突然声の調子が変わって、わたしは固まった。

「誕生日にサプライズ結婚式なんて、最高の思い出じゃないか。不満なんてあるはずないよね?」
 
立ち上がった健太郎くんが、窓辺のわたしに近づいてくる。
 
そのへこんだ鼻に、大きな耳に、わたしは確かに愛しさを感じていたはずなのに。

「僕は羽華子のために行動してるんだから、君は、黙って僕に従ってればいいんだよ」
 
低く冷たく呟かれ、わたしは声を失った。 
 
視線がぶつかる。
 
厚いまぶたに覆われた彼の小さな瞳は、部屋の内装も、景色も、わたしすらも映していない。
 
空っぽだ。
 
ぞっと、足元から怖気が走った。

「わ、わたし……」

「もういいから。ほら、ごはん食べに行くよ」
 
伸びてきた手に腕を取られ、強い力で引っ張られる。
 
食い込むほど強く掴まれ、振り払うこともできず、わたしは引きずられるようにして部屋を出た。


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