裏腹王子は目覚めのキスを
その言葉にドキッとして、わたしはさりげなくトーゴくんの横顔をうかがう。でも王子様は平然とした様子で、皮肉っぽい笑みを浮かべていた。
「それに……」
周囲を気遣う素振りを見せると、王子様はほんの少し声を落とす。
「”不能”は立派な婚約解消事由になると思うんだけど、羽華のせいにしてた分もひっくるめて、そのへんも法廷で争いますか?」
健太郎くんの喉元から、ごきゅっと変な音が響いた。
両手を握りしめて、彼はわなわなと身体を震わせる。
そんな健太郎くんを冷めた目で見下ろすと、トーゴくんはふたたびわたしに手を差し出した。
「羽華」
今度は迷わず、その手を取る。
トーゴくんの冷えた手の感触が、わたしの手のひらにぴたりと馴染んで、ぬくもりが溶け合う。
それから引っ張られるようにして、白い砂浜の上を歩き出した。
王子様の剣で容赦なく貫かれてしまった健太郎くんが少し気の毒だったけれど、わたしは振り返らなかった。
結婚を断わったくせに健太郎くんにいい顔を見せても、結局は自分を守ることにしかならない。
どっちつかずの甘さは、きっと誰も救わない。
浜辺にいた数人の外国人観光客が、物珍しそうにわたしたちを見ている。
置き去りにしたキャリーバッグを回収しながらも、わたしを掴んだトーゴくんの手は離れなかった。
南国の太陽に焼かれながら、ドレスのすそを引きずって、わたしは波打つ青い海に、背中を向けた。