裏腹王子は目覚めのキスを
黙って手を動かしているその姿はなぜか寂しげで、わたしは鏡台の前に立ったまま、おそるおそる声をかけた。
「ていうか……ホントにびっくりしたよ。トーゴくん、どうしてここに……?」
王子様は背中を丸めたまま、振り向かずに答える。
「桜太から連絡あったから。もともとフェリーでこの島向かってたけど、サプライズ結婚式とか言うから、かなり焦った」
感情を抑えているような低い声に、わたしは驚く。
トーゴくんはビンタン島に着いてから、島にあるリゾートホテルにそれぞれ電話をかけて日本人が宿泊していないかを確認し、このホテルを見つけ出してタクシーで駆けつけたのだという。
「観光客自体が少ないから、日本人なんてめったにいねーみたいだし。すぐ見つかってよかったよ」
滔々と答える彼に、わたしは首をかしげる。
「日本から、わざわざこっちに向かってたの……?」
トーゴくんは立ち上がり、汚れたキャスターのキャリーバッグを引きずってバスルームに消える。
中からくぐもった声が響いてきた。
「言ってなかったか? 俺の出張先、シンガポールだったんだけど」
その言葉にはっとした。
ビンタン島に向かうフェリーが出ているタラメラ・フェリーターミナルは、シンガポールにある施設だ。
わたしと健太郎くんは日本を出発し、6時間後にシンガポールのチャンギ空港に降り立った。そしてそこから、フェリーに乗ってインドネシアに属するこの島にやってきたのだ。
頭が混乱する。