裏腹王子は目覚めのキスを


「あ……穴があったら入りたい」
 
声を震わせるわたしの左手に、トーゴくんは悪戯っぽく笑いながら優しく触れる。

そして、

「誕生日プレゼント――にしては重いかもしんないけど」
 
グローブをしていない左手の薬指が、涙の結晶みたいなダイヤモンドの煌めきをまとう。


「羽華。俺と結婚して」

 
足元から、何か衝動めいたものが駆け抜けた。
 
喉が痙攣して、声が出ない。
 

白いシーツにハート形に散りばめられた、赤い花びら。
デコレーションベッドの端に腰掛け、トーゴくんは唇をかすかに緩める。


「……返事は?」
 

王子様のわざとらしい微笑みではなく、口端をつり上げた皮肉っぽい笑みでもない。

柔らかで、儚く散ってしまいそうなほど優しい微笑に、胸がしびれる。


「……はい」
 

答えた途端、また涙があふれた。

うつむくわたしを、彼は静かに引き寄せる。
 
わたしを見上げる王子様のうつくしい顔は、滲んでしまってよく見えなかった。
 

後頭部に添えられた手の感触と、そっと重なった唇のあたたかさだけが、わたしの脳裏に鮮やかに刻みこまれた。

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