裏腹王子は目覚めのキスを
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外でいつも愛想を振りまいている王子様は、自分の家に人を上げたがらない。
付き合った彼女でさえ自宅に招くことはほぼなく、寝室に至っては家族以外の人間を入れたことがなかったらしい。
トーゴくんにとって、自分のベッドは特別で、心の底から安らげる唯一の場所だったのだ。
「お前のおかげで、自宅がまるごと癒し空間になったわ」
チャンギ空港を発った飛行機の中で、トーゴくんは言う。
「仕事が忙しくなる前は、自分でそれなりに部屋を片付けてたけど、それでも結局俺は、家の中にいるより外に行くほうが好きだったんだよ」
多忙ではなくとも、やっぱりトーゴくんは家には寝に帰るだけの生活だったらしい。
それなのに、わたしがあの部屋を片付けた途端、外に出かけるのが面倒になってしまうほど家の中に安らぎを感じるようになったのだという。
「なんでそんなに家が好きになったんだろうね」
戦闘機のコックピットを豪勢に改造したみたいなビジネスシートに気後れしながら隣りを見ると、伸びてきた長い指に頬をつままれた。
「お前のせいだっつってんだろ」
「い、痛い、トーゴくん」
「お前が癒しオーラ出しすぎなんだよ」
不機嫌そうに言って、彼は「ふん」とシートに沈み込む。