裏腹王子は目覚めのキスを
シンガポールに来てマーライオンを見ていかないとは何事だ――って、わざわざわたしに見せるために、連れてきてくれたの?
「しかしあちーな」とつぶやく彼の声を背後に聞きながら、胸の高鳴りを感じていると、
「羽華」
「え?」
振り向いた瞬間、カシャッとスマホのカメラが鳴った。
「な、なに」
わたしに向けたまま、トーゴくんはまたカシャッとボタンを押す。
「ちょっと!」
カシャカシャカシャ。
「れ、連写!?」
スマホを奪うように伸ばした手をあっさりよけて、トーゴくんはこちらに画面を向ける。
「はは、アホ面にちょうど水食らってる」
見ると、マーライオンの口からきれいに曲線を描いて飛び出す水しぶきが、わたしの頭に直撃しているような角度で写真が撮れていた。
「も、もう、子どもみたい。変な顔だから消して」
「やだ」
いたずらな笑みを浮かべながらスマホをポケットに突っ込むと、トーゴくんは腕時計を見た。
「さて、メシでも行くか」