裏腹王子は目覚めのキスを
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タクシーに乗って連れてこられたのは、川沿いにずらりとテラス席が並んだシーフード料理店だった。
お店の正面は、まるで水族館のようにいくつもの水槽が壁に埋め込まれていて、エビやらカニやら魚たちが泳いでいる。
日が陰ってきてあたりは薄暗い。
太陽が頭上から消えても、空気はじっとりと水分を含んでいて、都内の夏の夜よりも蒸し暑かった。それでも水辺だからか、時折心地良い風が吹く。
お店の照明が届く外の席に案内されると、トーゴくんはさくさくと料理を注文した。
「なんか飲むか? アルコール」
「や……やめとく」
「なんで?」
形のいい唇をつり上げて、王子様は不敵な笑みを浮かべる。
「だって……」
酔っぱらった自分の醜態を聞かされたあとで、お酒なんか飲めるわけがない。
唇を尖らせていると、端正な顔がふっとほころんだ。
「ちょっと飲んだくらいじゃ変わんねーから、1杯だけ付き合えよ」
そう言われ、しぶしぶうなずく。とはいえ、翳っていく空と、湿った空気と、旅先という開放感から、少しだけお酒を飲みたかったというのも事実だ。
「かんぱーい!」
運ばれてきたビールで喉を湿らせ、お通しのナッツをつまんでいると、店員さんが大きな鍋をかかえてやってきた。
テーブルの真ん中にどんと置かれたその中身は、真っ赤なカニ。
いつの間にか紙エプロンを装着したトーゴくんが、スプーンを鍋に差し込んでカニの巨大なハサミを持ち上げる。
「うわ、すごい! 待ってそのまま! 写真撮る!」