裏腹王子は目覚めのキスを

「トーゴくん……行っちゃうの……?」
 
肩を落とすわたしを見て、王子様は眉根を寄せる。

「は? なにお前、一緒に来ないつもり?」

「え……?」
 
それから彼は、気が付いたようにわたしの頬をつまんだ。

「お前……俺の嫁になるっていう自覚が全然ねえだろ?」

「だ……だって」
 
彼の手が離れると、煙草のほの苦い香りが残る。
それはシンガポールのまったりとした空気に溶けて、風に押し流されていく。

「お前が待ってる家に帰りたいって、俺、言ったよな?」
 
どことなく責めるような目つきで紫煙を吐き出す彼に、胸がきゅっと締まった。

今日一日で、トーゴくんの言葉は、何回わたしの心を揺さぶっただろう。

「わたし……英語もできないし、トーゴくんに迷惑ばっかりかけちゃうかもよ……?」

「じゃあ、離れて暮らすか?」
 
突き放すように言う王子様は、わたしに選択の余地がないことを知っている。
 
目を伏せて黙っていると、鼻先に苦い香りが漂った。

次の瞬間、唇が軽く触れ合い、驚いて顔を上げる。


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