裏腹王子は目覚めのキスを
彼の顔が離れていくのと同時に、煙草の残り香が遠くなる。
あっけにとられているわたしを見て、トーゴくんはにやりと笑った。
「ま、イヤって言っても連れてくけどな」
自信たっぷりに言うと、王子様は煙草の火を消して灰皿に落とした。
嬉しいのと恥ずかしいので、頭がくらくらする。王子様のフェロモンにあてられて、心臓は鳴りっぱなしだ。
公共の場でキスをしても、こちらを気にする人間は誰もいない。
それでも気恥ずかしさを紛らわせるように、わたしは灰皿を見下ろした。
「……この国に住んだら、煙草、吸いづらくなっちゃうね」
屋外にはところどころに喫煙所が設置してあるけれど、建物のなかではほとんどが禁煙だ。
違反者には罰金を科せるくらいシンガポールは徹底した禁煙国家だから、愛煙家のトーゴくんには厳しい国かもしれない。
王子様は目をまたたくと、おもむろに尻ポケットから煙草のパッケージを取り出した。
「ああ、ちょうどいいかも」
言いながら、まだ中身の入っているそれをゴミ箱に放り込む。
「あ」と声が出た。
「もったいない……」
トーゴくんは何食わぬ顔でわたしを見下ろした。
「やめるって約束だったし。今のが最後の一本だな」
「え……?」
薄く笑う王子様の真っ黒な瞳が、お店の明かりを映して、優しく光った。
「結婚するし、な」