裏腹王子は目覚めのキスを



35階のその部屋からは、窓の外にマリーナ湾ときらめく夜景を見渡すことができた。

大型のテレビに机とソファ、ドレッサーまで完備された広い空間の真ん中に、キングサイズのベッドがどっしりと鎮座している。
 
室内をゆっくり見て回る暇もなく、わたしはバスルームに押し込められていた。

「着替えたか?」
 
こんこんと扉を叩かれ、そっと顔を出す。

「トーゴくん、これ……布の面積が心もとない……」
 
手で隠すようにしていたら、ぐいっと腕を引っ張られ、ビキニをつけた身体があらわになる。

「や、ちょっと……」
 
じろじろと無遠慮に見下ろされ、固まっていると、

「似合うじゃん」とつぶやいて、トーゴくんはバスローブを渡してきた。

「エレベーターで屋上行くから、それ羽織っていけよ」
 
水着を持ってくるのを忘れた、と言ったわたしにトーゴくんは「ありえねえ」と顔をこわばらせ、すぐさまロビーに併設されたショップへとわたしを連れていった。
そして彼が選んだのが、白地にピンク色の花模様があしらわれたこのビキニだ。
 
水着は可愛いけど、着るのはとにかく恥ずかしい。

「見てるだけでいいから」というわたしの主張はやっぱり「ありえねえ」というひと言で一蹴されてしまった。
 
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