裏腹王子は目覚めのキスを
パソコンを脇によけると、トーゴくんは身体の芯が折れてしまったみたいにテーブルに突っ伏した。
「仕事、大変なんだね……」
「ああ、ここ二ヶ月くらいは特にな……」
頬をテーブルにつけたまま面倒そうにネクタイを緩める仕草は、ついさっきまで凛然と英語を話していた人間とは思えないほどダラけきっている。
水揚げされたタコのようにふにゃふにゃで、今にも椅子から転げ落ちそうなのに、長い指の大きな手や端正な顔だちのせいか、だらしない態勢でもなんとなく品がある。
トーゴくんは生まれついての王子様なのだ、と思うと、嬉しいような寂しいような気持ちになる。
「はい、熱いから気をつけて」
湯気を立てる器をしばらく見下ろしてから、彼はおもむろにスプーンを口に運んだ。
「……うまい」
放心したように空を見つめる姿には、やっぱり仕事の疲れが色濃く滲んでいる。
大丈夫? と訊いたって、平気と答えるだろうし、少し休んだら? なんて無責任なことも言えない。
こんなに忙しそうなのに、わたしには何も手伝えないと思うと、やるせなかった。
「ごちそーさん。風呂入るわ」
「あ、うん」
きれいに空になった器を片付けながら、わたしはリビングを出ようとする背中に呼びかける。
「ねえ、トーゴくん」
「ん?」
食事をとったせいか、振り返った彼はわずかに顔色が良くなっている。ほっとしながら、わたしは部屋の隅に視線をやった。