裏腹王子は目覚めのキスを

 * * *

その週の土曜日、トーゴくんは休日出勤で帰宅も遅く、帰ってきてからは死んだように眠ってしまって、起きてきたのは日曜の昼前だった。

「おはよう」

「おー……」
 
起き抜けの彼はいつも素っ裸なので、わたしは視界に入れないようにしてキッチンを動き回る。彼が服を着てリビングに現れる前に簡単な食事を用意しておくと、寝ぐせを立てた王子様はおとなしく席に座った。
 
ここ数日で朝食を食べる習慣が身についた彼に、わたしは内心ほくそ笑む。

「今日、分別しねえとな」
 
リビングの隅に積み上げられたダンボールとビニール袋を一瞥して、トーゴくんはあくびをする。

「しかしだいぶ片付いたなー」
 
一週間前は足の踏み場もなかった部屋の中は、どうにか最低限の生活を送れる程度にはきれいになったと思う。ゴミを捨て、衣類を片付け、仕分けが必要なものを隅に寄せたら、リビングは驚くほど広い。

「あの山をトーゴくんに仕分けしてもらって、あとは引越しの荷解きをすればいいかな」

「ああ、助かる」
 
トーストにかぶりつきながら、トーゴくんはまだ半分夢の中にいるように、目を閉じたままもぐもぐと口を動かす。
 
穏やかに注ぐ日差しが、彼の色素の薄い髪を茶色く透かした。どんなに気が抜けた状態でも、王子様はまるで太陽に祝福されているみたいに光をまとい、思わず見とれてしまうほど美しい。

ふと、形のいい唇が動く。

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