裏腹王子は目覚めのキスを
「風邪ひいたっつって今日の約束キャンセルしたら、看病しに来るって……」
「トーゴくん、風邪なの?」
食器を落としそうになったわたしに、彼はとぼけた顔で肩をすくめる。
「いや、全然」
思わず脱力してしまう。
「嘘ついたの? ……どうして?」
「疲れてんのに、出かけんのだるいし」
「お邪魔なら、わたし、外出てるよ?」
「いや、この手の女は後々面倒なことになるし、もともと切ろうと思ってたから」
家に来たがる女はダメだ、と悪びれることもなく言い放つ彼は間違いなく女の敵だけど、同じ部屋にいながら平気な顔をしていることからも分かるように、わたしを女だとは思っていない。
幼なじみは昔から、男でも女でもなく、『先生』とか『親』とかと同じように『幼なじみ』という存在でしかないのだ。
家族みたいな、友達よりも近くて、でも恋人からは途方もなく遠い、存在。
「相変わらず、女グセ悪いんだね」
なんの感情も込めないように、平坦に言うと、トーゴくんはにやりと笑った。
「なあ羽華、夜、ちょっと出かけねーか?」
「え?」
「あれさっさと片付けて、飲みいこーぜ」
部屋の隅の荷物を一瞥して、王子様は品性の感じられない、何か企んでいるようないかがわしい微笑を見せた。