裏腹王子は目覚めのキスを
 


連れていかれた駅前の居酒屋は、日曜の夕方ということもあってお客が少なかった。

手持無沙汰そうに立っている若い女の子の店員がトーゴくんを見てはっとした顔をする。それから思い出したように「いらっしゃいませ」と出迎えた。
 
わたしたちを奥まったボックス席に案内すると、彼女はマニュアル通りの「ご注文がお決まりになりましたらお呼びください」というセリフとふたり分のおしぼりを残していった。

去り際に、ちらりとわたしを盗み見たのが分かる。

『あんなにかっこいい人がどんな女を連れているのか』と見定めるような目に、つい視線を落とした。


「お前飲むとどんな感じになんのかなーって興味あったから」

「べつに……普通だよ」
 
注文したビールが運ばれてくると、トーゴくんは乾杯もせずに口に運んだ。ポケットから煙草を取り出し、店員に灰皿を頼む。

「でもなんか変な感じだな。中坊だったお前が酒飲んでるなんてさ」

「そっちもね……」
 
アルコールが王子様にどんな効果をもたらすのか、知りたいような知りたくないような、どっちつかずの思いを隠すように、わたしは煙草をくゆらす長い指を見つめた。
 

ビールグラスと煙草と灰皿。
 
それらがすっかり板についた彼と向き合っていると、まだわたしが十五歳でトーゴくんが十八歳だったあの頃から、自分だけが止まった時間の中に残されているような気がした。

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