裏腹王子は目覚めのキスを



エレベーターを降りてすぐ靴を脱ぎ、鍵付きの靴箱にしまう。
裸足のままフロントマンが七人もいる細長いカウンターの一角で受付をしてから、わたしたちは絨毯が敷き詰められたロビーに出た。

「なんか……すげえな」
 
あたりを見回して、トーゴくんがつぶやく。
 
正面にはゆったりと腰かけられるソファ席が置かれ、通路は右と左に別れている。男性と女性、それぞれの更衣室に続いているのだ。

吹き抜けになった通路から下を見下ろすとカフェスペースがあり、ヤシみたいな観葉植物とハワイアンなBGMで、あたり一帯南国ムードが漂っている。
 
トーゴくんの最寄り駅から電車で一本のそこは、駅ビルに併設された都心のスパリゾートだった。

「お前、ここよく来てたの?」

「うん、休みが取れた日なんかは、ひとりで一日入り浸ってたよ。サウナとか岩盤浴もあるし」
 
受付でもらったリストバンド型のロッカーキーをわたすと、彼は物珍しそうに眺める。

「プールみたいだな」

「子どものお客はほとんどいないけどね」
 
館内マップで更衣室やスパの場所を確認し、わたしたちは専用の館内着に着替えるために一度別れた。
 
土曜日だからか、平日と比べるとそれなりに賑わっている。懐かしさを覚えながら、更衣室の受付で服をもらい、割り振られた縦長のロッカーに荷物を置いた。

銭湯の脱衣場に似ているけれど、アジアン風のおしゃれな空間には若い女性客が多い。
友達同士で来ている大学生たちの脇で岩盤浴用の専用ウェアに着替える。

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