裏腹王子は目覚めのキスを
岩盤浴では汗をかくけれど、下着は付けっぱなしにすることにした。
ピンクのTシャツとゆったりめの黒いパンツは身体の線が出ないように厚みのあるでこぼこした素材ではあるものの、岩盤浴は温泉と違って男女共同だ。
トーゴくんとスパに来てるなんて、不思議な感じ。
更衣室から出ると、待ち合わせをしているらしい若い男性とすれ違う。女性に負けず劣らず男性客もたくさんいるし、カップルで来ている人も多かった。
髪を一つにまとめてロビーに向かうと、青いTシャツにハーフパンツ姿のトーゴくんは階段脇に立っていた。
駆け寄ろうとして、ふと足を止める。トーゴくんは知らない女性二人組と談笑していた。
家ではめったにお目にかかることのできない、王子様の上品で優しそうな微笑みには、今朝浮かんでいた疲れなんて微塵も見当たらない。
こんなとこでまでナンパなんて、何しに来てるんだろ。
おもしろくない気持ちで眺めていると、トーゴくんがこちらに気づいた。
「ごめん、連れが来たから」
爽やかな王子スマイルを彼女たちに向けて、わたしに近づいてくる。
「もういいの? 話」
感情を出さないように言うと、彼は目をまたたいた。
「は?」
「話したいなら、わたしお風呂行ってるし、ゆっくりしてていいよ」
無表情を保ったまま踵を返そうとした瞬間、腕を取られた。
「いやいやいや、疲れてんのに、なんでナンパしてきた女とゆっくり話さなきゃなんねんだよ」
「しっ、声、大きい。彼女たち、まだこっち見てるよ」