恋するドライブ
 乱暴に迫られたわけじゃないのに、迫力に気圧されて、それを心地いいと感じている自分もいた。

「人形だなんて……思ってない、よ」

 激しく心臓が鳴る中、声を振り絞って答えると、ふっと江端は笑った。

「菜々美さんはしっかりしてるし、今日のこともひとりで決めてがんばってくれたけど、それだと俺の出番がないよ。俺なんて必要としてないんじゃないか、って思える」
「そんなことない。ただ私は」

 私は——もっと好きになってほしいだけ。

「カッコ悪い私を見せたくなくて」

 鼻が触れ合う近さで打ち明けると、泣きたくなった。
 素肌っぽく見せるメイクとか、悩んでいるそぶりで男の子の気を引く技術を体得した恋愛上級者ならともかく、菜々美はあらゆる自信に欠ける。江端が自分の恋人であることを、未だ信じられないのだから。
 ふっと江端が笑う。目を細めた表情は本当に優しい笑顔で、馬鹿にされているのではないとわかって、少し緊張がほどけた。

「菜々美さんが弱みを見せられるのは、僕だけでしょう?」
「……自信持ちすぎ」
「まぁ、願望です。そうであってほしい。いいところだけじゃなくて、駄目なところを見せても許せる関係になりたいって思ってます」

 そう言うと、江端は菜々美の額に口づけた。
 軽く触れられただけで、じんと熱が集まる。皮膚が、前髪が、江端の唇を憶えてぞわぞわとする。

「ずるい」
「どうして」
「私が逃げられないと思って……するなんて」

 菜々美がにらむと、江端はにやりと笑った。初めて見る表情だ。
 この顔で命じられたら、どんな内容でも、うん、とうなずいてしまいそうだ。

「もっと僕に頼ってください」
「努力はする……」

 素直に承諾すると、江端は満足げに菜々美から離れた。
 魔法が切れたように、座席に押しつけていた身体から力が抜けた。
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