極妻
ベットから身をのり出して、椅子に腰かける兄ちゃんに迫る勢いで訊ねた。


一方、兄ちゃんはやさしい微笑みを浮かべて、


「まえにも言ったけど小夜子は俺の宝物や。小夜子があの家におってくれたから俺は生きてこれたんやで」


「な、な、な、なにを言ってんのー!?大げさな…」


「大げさやないよ。覚えてるか?

初めてあった日、小さかった小夜子はシロツメ草で作ったブレスレットくれたな。震えながら渡してくれた。

あんとき天使に見えた。俺の安らぎや。もし小夜子がいなかったら俺はろくでなしになっとった。人間のクズに。
……いまでもろくでなしやけどな」


「に、兄ちゃん…」


「あの時から小夜子を守るんは俺やと思っとった。それが俺の役目やって」


優しい顔でそう言われ、頭に血がのぼってひっくり返りそうになった。


兄ちゃんの顔が直視できん!


そんな昔のこと覚えて……
て、て、天使やて……


けれどテンションが上がったのはつかの間、次の一言で頭が真っ白になった。


「兄ちゃんな、今度結婚するかもしれへん。組の為や」


「…え!?結婚!?誰と!?どこの組の女!?」


「チャイニーズや。いまの日本はアジア系マファアのええ食い物や。何とかせなシノギもなくなるわ」



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