極妻
「組のなかには戦争したらエエっちゅう考えもあるが俺は好かん。勝っても敗けても死人が出るやろ。残された家族が泣くだけや」


ああ…兄ちゃんは優しいんやな。本来極道なんかなる人やない。


形だけの結婚とは言え、尊兄ちゃんが人のものになるなんて…!!


腕がブルブルと震えだすと、兄ちゃんはそっと手を握ってくれた。


「組の為やて西園寺朔夜と結婚さした小夜子に、こんなこと言うたら図々しくてバチ当たる思うんやけど……俺の傍におってほしい」


「………え?」


「小夜子がいてくれへんと、人間としての俺が死んでまいそうなんや。ホンマは、ずっと、一秒でもはやく小夜子を取り戻したかった。もし西園寺朔夜を実兄と知らんかったら……殺してたかもしれん。

いくら仮面夫婦でも」


「……たける…にぃちゃん…」


「お前がアイツのこと、"朔夜"て呼ぶだけでも腸煮えくり返るんや。オレもとうとう、いかれたのかもしれん」



ずっと憧れてるだけやった兄ちゃんが、私に夢のようなことを言ってくれてる。


兄ちゃん…!


好きや!ずっと誰よりも…!
ずっとずっと一緒にいたい!家に帰りたいわ。私が独り占めしたい!!


私は兄ちゃんの大きな手を握りかえした。涙がこぼれる。



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