二十年後のクリスマスイブ
「今、来たの律子さんでしょ…」

 居間に戻って来た桐人に真由美が不安そうに尋ねた。

「………」

「やっぱり……」

「すまないが今は、少しだけ静かにしといてくれないか…」

 それだけの言葉を残し、桐人は黙って奥の寝室に向かうと、ドアの音だけを残し姿を消した。


「あのまま、意識が戻らない方が良かったのか? 楽しかった思い出を抱えたままで充分だったのに又、新しい道が待っているとは…」

 生と死の境を彷徨った三ヶ月前……それで、浮世から消えても悔いは無かった。律子とずっと一緒に歩く筈だった人生が崩れ、ただ一人で佇んだつまらない日々が続くと不思議と肉体は全ての欲を求めなくなった。
 今が朝か夜なのか、時の感覚すらどうでも良かった。
 体力だけは確実に削られ少しずつ意識が薄くなっていった。

「このまま死んじまうのかな…それも、いいか…」
 そのまま桐人は静かに眠りについた。



「桐人…桐人さん…」

「誰かが俺を呼んでいるのか?…」

 真っ暗な世界の中で桐人を呼ぶ声が聞こえる。 しかし、衰弱しきった躰は何の反応を起こす事も出来なかった。
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