二十年後のクリスマスイブ
何でも聞くと言った桐人に二言は無かった。

「………判ったよ。但し今夜一度限りにしてくれないか?それが、ホスト桐人の最期の仕事として」
「………」

 真由美は言葉を出す事は無く、ただ頭を一度縦に振った。

「感謝してるよ!助けて貰って…それじゃ用意するから、一寸待ってて」
 桐人が服を着替えようとした時、真由美が桐人に抱きついてすがる眼差しで静かに言った。

「此処がいいの…素の桐人さんじゃ駄目なの?」
「此処は駄目だよ…それに、素では抱けない…ホストとして最後の仕事をさせて欲しい…」

「私は恋愛の対象外という事を遠回しに言ってるだけじゃない…」

「………………」

 桐人に言葉は無かった。
「今日で、さよならなのかな?…」

「最高の仕事を俺はするよ!そして、俺は又全てを一から始めるよ…君は他の素敵な男を探して欲しい…」

「まだ忘れられない?前の彼女…」

「一生涯忘れられないと言える!……判ってくれ」
 真由美の両肩を掴んで桐人は体を静かにを離し優しく見つめた。
 その眼は哀愁が満ち溢れていて、真由美には言葉を出そうにも、もう全身がそれに吸い込まれてしまい、もう為す術は無かった。
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