二十年後のクリスマスイブ
「純粋な馬鹿よ!桐人は…」

 落ち着きはしたものの、涙は止む事無く律子が呟いた。

「でも、俺は生きてるんだよ…きっと運命で死なないようになってんだな。不思議だよ…」

「何、馬鹿な事言ってるの!生きているから、こうやって……」

「本当の別れを迎えなければいけなくなった!…お互いに気持ちがシンクロしたのが確認出来たというのに!!」

 大粒の涙を流しながら桐人が、テーブルを叩き付け声を荒げた。

「落ち着きなさい。桐人」

 新井がコーヒーをテーブルに置きながら桐人を諫めた。

「今日は、厳かなクリスマスイブじゃないか、久し振りに逢ったのに涙とは穏やかじゃないな…君達は笑顔が一番!さぁ、スペシャルコーヒーでも飲んで素敵な夜をごゆるりと…アルコールも何なら用意するよ」

 そう言い残し、新井は二人に背を向けカウンターへ戻った。

「変わらないな、マスターは。コーヒーの香りの良さも…」

「ええ…」

 この時だけは、二人に温かいものが伝わったのか、短い間だが幸せな時に見せていた表情に戻り少しは安堵しながらも、新井も複雑な気持ちだった。 久し振りの桐人と律子のツーショットを遠目に眺めながら、切なさが募った。
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