二十年後のクリスマスイブ
「それじゃ、桐人スペシャルを煎れるとしよう… しかし、良く似ている若い時の親父さんに、笑顔もそっくりだよ…」


「そうですか……きっと父は来ますよね?」


「私は二十年待っていたよ…今日と云う日を」


「父も、それを聞いたら喜びますよ。きっと…」

「出来たよ。桐人スペシャルだ。とか言っているが、今では《南風ブレンド》にさせて貰っている…」


「これが親父の好んだ珈琲!良い香りがします…」


 新井が見守る中、拓真がカップに口を着けた。 すると、一口でカップを戻し呟いた。

「親父の匂いがします。優しさに包まれた苦さが父を想い出させます…」


「君は、親父さんが此処に来る理由は知っているのかい?」


 桐人への想いなのか、感慨にふける拓真に新井は訊ねた。


「全ては、此処に来れば判ると言われただけです…父は、もしかして此処に現れないのかも知れません…考えたくはないのですが…」


「どういう事かな?」


「一年前に母が病気で亡くなりました…本当に突然な出来事で、僕は茫然自失になってしまいました。けれど母は死ぬ寸前迄、笑顔を忘れない最期の最後まで、最高の強い母親でした…」
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