二十年後のクリスマスイブ
「どうかしたの?…」

律子の視線が玄関先にある黒いパンプスで止まった。

「誰か居るんだ?…」

 律子の言葉に驚きや、不安さは無く平静だった。
「じゃ、これだけは渡しておくね。」

 律子が桐人を笑顔で見つめて紙袋を離そうとした時、桐人が俯いて静かに声を出した。

「受け取れないんだ…もう…済まないが、マスターの所で待っていてくれないか、後で必ず行くから…今、この部屋に入れられない訳は後で話すから、とにかく待ってて欲しい…」

「判った……マスターのところで待ってるね。」
 律子は、気丈に明るく振る舞い、一度離した紙袋を持ち直し桐人の部屋を離れた。

「済まない!律子…」

 やるせない気持ちを残しながら桐人はドアを閉めた。

「とんでもないクリスマスイブになっちまったな…」

 居間に戻り掛け、皮肉な神のプレゼントに桐人は、天を仰ぐしかなかった。
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