薬指の秘密
真っ暗な闇、それからいつも引き上げてくれるのは、大きな手だ

「…海斗」

ふと目を開ければそこには見慣れた姿

無意識に大きく息をつく

頭を撫でてくれていた手にすがるように自分のそれを重ねる

流れる沈黙

何も言わないでくれるのは、何も言わなくてもすべてをわかってくれているから

「いつから居たの」

「ついさっき」

離れて行く手がずれたふとんを引き上げてくれる

「医局は?」

「他の先生に交替した」

昨日だって本当は休みだったし

そう言って手の甲が額に添えられる

「だいぶ下がったな」

「寝たもん」

それでも外を帰ってきた海斗の手の方がはるかに冷たい

「ねえ、」

見上げれば広い背と見下ろしてくる漆黒の瞳

「ミルクティ、飲みたいな」

言葉が少なくてもただその瞳が見下ろしてくれるなら他に何もいらない
< 34 / 70 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop