薬指の秘密
「お疲れ様ですね」

満面の笑みで見上げてくるしるふに

「本当にな」

少し癖穎した声を返す

途端に響く笑い声

「飯田さんが後で小雪ちゃんのことでご相談があるそうです」

急ぎじゃないようですけど、戻ったら声かけてあげてください

「わかった」

視線を手元に戻して枝に飾りを通す

「黒崎先生」

穏やかな声に呼ばれて見下ろせば、

「てっぺんの星ちょっと曲がってます」

「あ!?」

脚立に乗って不安定な状況での飾りつけというのは思った以上の重労働だというのに

なんて軽々しく言ってくれることか

「そういうことは30分くらい前に」

「そのころ私は外来診察中でした」

残念

面白いものを見るような笑顔と細められた瞳

流れる沈黙は、無言の会話

「後で直す」

ため息をつく背中に
< 5 / 70 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop