薬指の秘密
「立花?」

二人で並んで歩いていると背後から響いた低い声

聞きなれた海斗のものではない

足を止めて振り返れば、そこには

「…山岸君?」

記憶にかすかに触れる顔

濃紺のスーツに身を包んだそれは高校と大学の同期に一致する

「へえ、黒崎病院に内定したって聞いてたけど本当だったんだな」

「まあ、ね」

とあるきっかけで知り合った神宮寺のお誘いに乗っただけだから

出来レースだったと言っても間違いではないが

「山崎君は、えっと…」

見慣れないスーツを眺める

「黒崎病院の方にちょっと営業で。っていっても医院長殿は不在で秘書の人に話をしに来たんだけど」

そう言えばまだ医院長はアメリカに滞在中

「黒崎病院ER勤務黒崎海斗先生ですよね。S機器の山崎です。良しなにどうぞ」

「どうも」

営業スマイルとともに差し出された手を一瞥するけれど決してそれを握り返すことはない
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