キュンとする距離


「お疲れ様でした。お先に失礼します。」

「おつかれー。」


定時で上がり、エレベーターの前で冷蔵庫の中を思い出す。

今日の晩御飯はなににしようかなぁ。


「パスタでいっかぁ。」

「じゃあミートソースにしようか。」


とくに冷蔵庫の中にあるもので思いつく食材がなく、気だるいつぶやきに後ろから返事がかえってくる。

驚いてばっと勢いよく振り返ると、そこにはニタニタしたやつの姿があった。


「一緒に帰ろ。今日は、ひさびさに定時で帰れんだ。」

「帰らない。」


だいたいなんであんたと一緒に帰らなきゃいけないの。という言葉を飲み込んで、再びエレベーターの方を向いて素っ気なく言う。


「ミートソースじゃだめ?ペペロンチーノとかは?」

「どっちもしない。」


なんでやつはこう昔からよく話しかけてくるんだろう。

どんなに素っ気なくしても、ニタニタと笑っている。

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