サクラと密月
あの日、サクラの下で



その数週間後桜が咲いた。



その間も、恵介と私は今までの様に付き合っていた。



以前から仕事の山になると連絡が取れない日はあったから、時々音信不通になっても


仕事だと言われれば、それを信じるしかなかった。



あの日の事は考えるのも嫌だったのだ。



そして、とうとうその日が来た。



公園に夜集合だったので、仕事帰りに地下鉄で向かう。


部の飲み会なので、お昼に差し入れをデパ地下で買っておいた。


少しおしゃれも頑張ってした。


ミニスカートにブーツだ。勿論それだけじゃないけど。


電車を降りて改札に向かう途中で、和彦に会った。



「あれ、未羽さんも花見?」


この間はどうもと、挨拶をする。



「この間は俺大丈夫でした?あんま覚えてなくて。迷惑かけてなかったら良かったけど。」


「楽しかったですよ。今日も一緒で良かったです。


あんまり知ってる人いないから、安心しました。」



これは本心。



だって内心戦場に行く気分だったから。


「こんな可愛い娘誰もほっとかないですよ。大丈夫。」


そう言って笑った。


上手いなぁと私。



駅を出ると、屋台やライトアップされた桜の木が目に入った。



行き交う人達もなんだかざわついていた。


和彦が足を止めた。



花を見上げる。私も一瞬我を忘れて見上げた。



風もなく穏やかな夜。


静かに桜が咲いていた。



彼の気配が心底花に見とれているので、一緒に花に見とれる。


彼なら一緒に見上げても大丈夫。


そんな気がした。


こういう瞬間に彼と一緒に居れたことが少し嬉しい。


彼が一瞬私を見る。私も見つめる。


自然にお互い笑顔になる。


もしかしてして今、同じ事考えていた?



何だろう、この不思議な感覚。



後ろを屋台で買い物した花見客が通った。


二人連れだったらしく、食べ物の話や別の花見客の話をしている。


そうか、彼は花を見れる人だ。



花見にきて、ただ花を見る人あまりいない。



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