サクラと密月



楽譜のコーナーを見ていると、彼がこちらにやって来た。


「どお、いいCDあった。」



私は彼に選んだCDを見せながら話かけた。


「よくわからないから、オムニバス選んだ。知ってる曲もあるし。」


彼はCDを見て少し考えてから、うん。いいんじゃない、と言った。


そして笑顔で私を見つめた。


見つめられるだけで、ドキドキした。


そんな自分を誤魔化すように話かける。


「ハルは用事終わったの。」


「うん、終わった。帰ろうか。」


そう言って店の名前の入った袋を私に見せた。


じゃあ、CD買ってくると私は、さっきハルが店員さんと話していたレジに向かった。


ハルも一緒についてきた。


店員の人がハルを見て、ハルに話かけた。


「おや、女性連れてくるの初めてだよね。」


少しからかっているみたい。


仲が良いんだ。


歌っている以外の、彼の生活を見たような気がした。


沢山の人に囲まれている彼。



その言葉を聞くと、ハルは照れた顔をした。


その顔を見て、私の方がドキドキした。



その店員さんの言葉がすごく嬉しい。



今日初めて会話して、もう彼にドキドキしたり嬉しくなったり。




お酒のせいかな、それとも。




CDを袋に入れてもらい、それを頂くとお礼を言って店を出た。



名古屋の郊外の街だから、食事の時間を過ぎると人通りが少なくなる。


店の前の道路も店に来たときより、車の往来が少なくなっていた。


「さ、帰ろう。」


そう言われて車に乗り込んだ。


帰りの車の中でも話に夢中になった。


今度は私の話をした。


ハルは楽しそうに聞いてくれた。


嬉しそうに聞いてくれるから、沢山話てしまう。


ハルのアパートにすぐ着いてしまった。


残念そうな私。


「送っていくよ、どっち。」


私は彼の横に並ぶ。


大きな月が彼を照らす。


街も月灯りに照らされて、別の世界みたいだ。


私のアパートにもすぐ着いてしまった。




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