サクラと密月
「あそこがアパート、ありがとう。すごく楽しかった。」
ハルはじゃあ帰るね、と言った。
「俺もパスタ美味しかった、また行きたい。」
と、言ってくれた。
私はそれだけで嬉しくてまた笑顔になった。
「いいよ、約束。」
ハルも笑う。そして元来た道を戻ろうとする。
見送る私。
「また、店にくるよな。」
「うん、必ず。」
手を振りながらそう言う彼に、そう答える私。
彼が角を曲がって見えなくなるまで、私はそこに立ちつくしていた。
それからもう毎日、次にお店に行く日を指折り数えて待った。
本当に毎日早く時間が過ぎて欲しくて仕方がなかった。
ハルとあんなに話していたのに、連絡先を聞くのを忘れていた。
ばかな私。
仕方がないから仕事に打ち込んだ。
仕事してれば時間が経つのがすごく早かったから。
残業もたっぷりした。
仕事も楽しくなってきた。
元々司法書士のような仕事がしたかった。
社内文書を書くのは楽しい。
検定試験も受けてみたくなった。
勉強も始めた。
自分の夢だけを追い求めるハルを見ていたら、自分も夢を追いかけてみたくなった。
それがまた、仕事をする上で役にたった。
そんな私を上司である係長も、信頼してくれて伸び伸びと仕事をさせてくれた。
それが嬉しかった。
仕事をして家に帰り、ジャズのCDを聴いて寝る。
そうして月に一度の日がやって来た。
いつもの通り、仕事を早く切り上げてお店に向かう。
今日はいつもよりドキドキする。
お店はいつもの通り、音楽に溢れていた。
まだ演奏には早かったみたい。
私はいつもの通り好きな料理を注文する。
料理を食べていると、演奏が始まった。