サクラと密月
そろそろ西日が街を赤く染め始めた。
車も彼も赤く染まっている。
私もかな。
車は南を目指して進んだ。
「俺びっくりしました。まさかあそこに未羽さんが居るとは思わなかったから。」
栄を過ぎると、高速道路が現れた。
派手なビルより、3階建ての小さなビルが立ち並ぶ静な街に変わる。
「私もびっくりしました。 前にカラオケ一緒に行った時聞いた曲を、
今日偶然聞いて凄くよくて。あの曲本当に桜が見えるみたいで、好きになりました。」
あの日の桜が一瞬頭をよぎる。
ちょっと軽率だったかな。ここに居ること。
でも、彼のこと純粋にもっと知りたい。
しばらくすると舗道を歩く人もまばらになった。
車は逆に増えていく。
「今日はたまたま仕事で車が必要だったんです。
相手先に説明に行くつもりが、相手の都合でキャンセルになっちゃって。」
高架の下を、しばらく太陽に向かって進んだ。
夕陽がまぶしい。
あまり車で名古屋の街中を走ったことがない。
自分でなんか走れない。
こんなに車線の多い道。
だから見るもの全てが新鮮に目に映る。
「私も車持ってるんだけど、市内は走ったことなくて。だから新鮮です。」
「そうなんだ、俺初めて車買った時すげー嬉しくて、休みの日は連れと皆で
夜通し走ったりしてた。」
そうイタズラっぽく笑う。
どんな思い出があるんだろう。
なんだかその笑顔に素敵な思い出がありそうで気になる。
進路はまた南に変わる。
川沿いの道にでた。
川の対岸の街の明かりが綺麗だ。
川面に対岸の明かりが映る。
道路は車が少なくなり走りやすそうだ。
大きな工場も見える。
名古屋にこんな所があるなんて知らなかった。