サクラと密月
電車はやがて街を抜けて、懐かしい景色を連れてきた。
約半年ぶりの地元だ。
電車を降りて実家に向かう。
母親が居たらなんと言おうとそればかり考えていたが、
両親の車は両方ともなかった。
出掛けているらしい。
俺は実家近くに借りている駐車場に行った。
そして車に乗り込んだ。
時々弟が使っているといっていた。
鮮やかな青のコンパクトカー。
エンジンが掛かるか心配だったが、OK一発でかかった。
俺はドライブに出掛けた。
始めて車で出掛けたので、何度か道を間違えた。
それでもスマホのナビに導かれながら、一時間ほどで目的地に着いた。
蘭と二人で行った海だ。
季節が過ぎているからか、やっぱり人影はまばらだった。
駐車場を見つけて車を停めた。
車を降りると、潮の香りが全身めがけて襲ってきた。
海風が吹いている。
リズムを取るように、波の音が同じような間隔で聞こえてきた。
俺は海岸に向かって歩いた。
堤防から海へ抜ける道を捜し、海岸にでた。
そこには目が覚めるような眩しい海が広がっていた。
秋の陽射しが海面を輝かせている。
俺は暫く馬鹿みたいに海を見つめて立ち尽くしていた。
ああ、こんなに美しいものってあるんだな、と俺は心を奪われていた。