遊川さんは今日も最強


「……デートだったか?」

「はっ? あ、いえ」


反射的に返事をしてしまう。
ここはそうですっていえば良かったのか?
でもまだ俺は告ってないわけだし。


「だそうだぞ。遊川はもう少し女らしくすりゃいいのにな」

「嫁も貰えない人には言われたくないですね」


三上さんが遊川さんの肩をポンと叩く。触るなよ、セクハラ! 

……てか嫁が居ないって。
こんな格好いいのにこのおっさん独身かよ。


「なあ、網目くんだっけ?」

「はい」


遊川さんを挟んだ状態で、三上さんは俺に酒をついでくれる。
つぎ返そうとしたら先にお猪口を空にしてくれた。この辺りもスマートだ。


「手芸雑誌とか、嫌にならねぇか? 『JACK』も人員不足なんだよな。もし興味があるならどうだ? 次の人事異動で声かけてやろうか」

「は?」

「ちょっと、三上さん」

「遊川は黙ってろ。俺はわかるぞ、女性メインの雑誌では居心地悪いだろう」


予想外の展開に、俺は目を丸くする。
というか、酔いも回っているのか視界もブレるな。

三上さんの誘いは魅力的な気がする。

本音を言えば一番は雑誌より文芸書のほうがやりたい。
でも同じ雑誌なら手芸誌よりは男性雑誌の方が……。

でも。

隣の遊川さんは、俺と三上さんを交互に見つめつつ黙っている。

さっきの彼女の言葉が、まだ俺の中に残っている。

『ハートフルソーイング編集部期待の網目くんです』

お世辞なのかも知れないけど、遊川さんが期待してくれるなら、俺はここで頑張りたい。
彼女の雑誌づくりの精神を、学んで吸収して、俺の力に変えていきたい。


「……俺は、今の場所で頑張ります。だって」


ああ、視界がグラグラ揺れる。
この酒、旨いけどやっぱり強いなぁ。


「遊川さんを、……尊敬、してるから」


恥ずかしいことを言っているからか、頭にカーっと血が上ってくる。
と同時に、目の前に緞帳がおりてくる。

あれ、待ってよ。
俺まだ遊川さんに大事なこと言ってないんだけど……。


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