S系課長のアメとムチ~恋はお叱りのあとで~
「安井、それ俺がやり直すから、部長に付いて行って。」
佐藤の一言に、安井萌は「すみませぇん」と甘えた声とキラキラした笑みで応えて、出掛けて行った。
そして、去り際、彼女のミスを注意していた私に得意げに微笑む。
期待を裏切られて失望する私を嘲笑うかのように、彼女は弾んだ足取りで部長室へと向かう。
「松岡、お前は自分の仕事に戻っていいぞ。それは、俺が処理しておく。」
呆然とする私に声を掛けた佐藤はまるで当たり前のことのように、私の手から仕事を抜き取っていく。
ああ、彼は変わったんだな、と思った。
そこに、私に厳しく説教を繰り返していた彼は居なかった。
いや、違う。
他の部下に対しては厳しく注意している姿をここ最近も見ている。
安井萌だけが特別なのだ。
なんだ、可愛いくて若い子だけには甘いのか。
所詮、彼もただの男なのかも知れない。
別に、彼女のことを羨ましいだなんて思ってはいない。
多少厳しくても、仕事を一人前に出来るように育ててもらったことに対して感謝もしている。
ただ、彼のそんな対応に、少しだけ失望しただけだ。
私はふぅと一つため息をついてから、自分の仕事に取りかかった。
朝から彼女のフォローをしていて、全く進んでいなかったそれを、ただ無心で片付けた。