S系課長のアメとムチ~恋はお叱りのあとで~

そんな理由で昼過ぎに帰ってきてみれば、部屋の中にはすでに嬉しい来訪者がいた。

「あ、おかえりなさい。」

合い鍵を渡してあるが、これまで俺の不在時に使われたことはなくて。
だから、出迎えた彼女の姿に驚いて、思わず本物かどうか確かめる。

「ただいま。俺、ついに幻覚が見えてる?」

彼女の顔と体をベタベタ触りながらふざければ、的確なツッコミが返ってきた。

「…大丈夫ですか?一応、メールしたんですけど。」

冷静になって、ポケットの中の携帯を見てみれば、メールの着信を知らせるランプが点灯している。

「あ、悪い。携帯、丸一日くらい見てないわ。」
「やっぱり。そうだと、思いました。」

呆れながらも、彼女の声は俺の労をねぎらうように優しく投げかけられる。

「返事がないから迷いましたけど。洗濯物、持ち帰って洗ってきました。困ってるかと思って。」

彼女が指さしたのは、リビングのラグの上、きれいに折り畳まれて積み上げられた俺の洗濯物だ。
昨日までは洗濯かごの中にぎゅうぎゅうと詰められていたそれを、今朝早くに持ち帰って洗濯してくれたらしい。

おお、救世主よ。
ただでさえ可愛い目の前の恋人が、一層輝いて見えた瞬間。

お礼よりも何よりも、つい抱きしめてしまった。

「いずみが、天使に見える。」
「それは、間違いなく幻覚です。少し寝た方がいいですよ。」
「洗濯ピンチだって、よく分かったな。」
「何となく。メールにも書きましたけど、困ってることないか見に来たんですよ。洗濯物溜まってなかったら、掃除でもしようかと思って。」
「助かった。洗濯物、重くなかった?」
「あのくらい大丈夫ですよ。ここで洗濯して干そうか迷ったんですけど。うちの洗濯機は乾燥機付きなので、早く仕上がるかなと思って。」

実際半日で片づいちゃいましたと、得意げに笑う彼女の頭を何度も撫でた。

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