誘わないで
 
 茉莉は昔から彼が苦手だった訳ではなく、その実情は、彼と幼馴染であることを誰にも知られたくない、というところにある。

 晃は童顔ながらも180近い長身と人懐こい笑顔、誰にでも優しい気さくな性格、将来有望株な上に現在彼女ナシ! ともなれば、営業であちらこちらの事業所や支店に顔を出す彼を勤務地問わず多くの女子社員達が放っておくはずもなく。

 そんな有名人(⁉︎)と知り合いとバレれば、職場の女性達から何を言われることやら……。

 そういった個人的な人間関係の事情もあり、出来れば会社内では話し掛けて欲しくないのだ。


「用事ないなら出てって。今すぐ消えて」


 晃から視線を戻した茉莉は時計に目をやる。

 ティーバッグを取り出すまでもう少し。


「なんだよ冷たいなー。さっきまでガッチガチに緊張してたじゃん」

「……っ、えっ、なっ、なんでっ」

「俺も会議室居たから。しかも出入り口付近。すっごい近くに居たのに、お茶出しに真剣で気付かないの超ウケた」


 小馬鹿にするような笑みを浮かべた晃は、茉莉の隣までゆったりとした歩調でやって来た。

 給湯室は狭く、嫌でも距離感が近付いてしまう。

 バレない程度、半歩ほど晃から離れて、茉莉はタンブラーの蓋を開けた。

 紅茶の良い香りが立ち昇るが……残念な事に室内に漂う珈琲の香りの方が強く、晃に会ってしまった事も会議室での失態を見られていた事もプラスされ、気分は最悪だ。
 
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