キスしなかったのは……
「行くぞ」
彼が消えたと思った瞬間、代わりに現れた課長は、ものすごく不機嫌。
「課長……?え?」
あたしの疑問には答える気がないのか、黙ったまま強引に引っ張っていく。
その道すがら、気を失って倒れる彼が視界の端に見えた。
何が起こったのか想像もつかない。
そして、着いた先は課長のマンション。
2度目の訪問がこんなにすぐに訪れるなんて思ってもみなかった。
というか、2度目はないと思ってた。
明るく広いエントランスを抜け、エレベーターを待つ間も、捕まれた手は離されることもなくて、
まるで搬送中の容疑者みたいだ。なんて思ったら、ついプッと吹き出してしまった。
そんなあたしを、冷たい目で一瞥した課長。