キスしなかったのは……
いつもあたしを呼ぶときは『石渡さん』って呼ぶのに。
突然のことに思考がついていけない。
なのに課長は、そんなあたしを試すようにフワッと柔らかく微笑んで
「どうする?試してみる?咲良」
なんて畳み掛けるように問うから、冷静な判断力を完全に奪われた。
どこをどうしてそこまで辿り着いたのかは今も思い出せない。
気付けば一糸纏わぬ姿で、課長の腕の中で乱されていた。
明け方、目が覚めると隣には美しい寝姿の課長がいて、昨夜のことが夢じゃなかったと急に恥ずかしくなった。
そしてあたしは──
逃げた。
だって、怖かった。
目が覚めたときの課長の態度が怖かった。
それから1週間。