素直になりたくて~メイクに恋してあなたを愛す~
最悪な上司
翌日、私は会社に向かうために電車に揺られていた。


朝の満員電車は毎度のことながら辛いものだ。
人と人の間に立ちながら、電車の揺れに体を預けていれば睡眠という欲求が私を襲ってくる。


特に今日はいつもの倍は眠たい。
昨日の夜、私は自宅に戻ってからも企画書の作成をしていた。
その作業は深夜までかかり、私の睡眠時間はいつもの半分以下だった。


あまりの眠さに勝てず、私は大口を開けてあくびをする。
手で押さえればいいものを、眠さで頭は回らない。
どうせ誰も見てないだろう。


「……ハァ」

「……?」


隣から盛大なため息が聞こえ振り向けば、身長が高い黒髪の男の人が立っていた。
その人と目が合えば、黒髪の男の人は再び盛大にため息をついていた。


……もしかして私を見てため息をついてる?
明らかにこっちを見てるし……。
でも、何で見ず知らずの人にため息をつかれなければいけないのだろうか……。


考えていれば1つだけ心当たりがある。

アクビか。

手で隠さずにためらいもなくアクビをする私にため息をついたんだ。
……そう思ったら恥ずかしい。
まさか人に見られるなんて、思ってもいなかった。


1人で落ち込んでいれば、私が降りる駅に着いてしまった。
慌てて降りる私、偶然にもさっきの男の人も同じ駅で降りたみたいだ。
人混みに交じってもう姿は見えないが……。


どうかあの人の記憶から私のアクビを消して欲しい。


……まぁいいや。
どうせ会わないし。
見られたのが知らない人で良かったと思おう。


なんてポジティブに考えながら会社に向かう。

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