好きになんてならない!!

「あ、あの……」

「少し脈が乱れているな」

『え?!そ、それは、多分……』

「やはり、なかなか不整脈がとれないか。しっかり食事は摂れているのか?」

「た、食べてる筈だけど……」



「……目が泳いでる」



そう言って、三神先生は身を屈め、ゆっくりと私の顔を覗きこむ。


そ、そんなに顔近づけたら、色々困る!!

たえられなくなった私は、思わず視線を横に逸らした。

「別に、そ、そんなことないですよ?」

「……」


ダン!


突然、耳の横で、小さくも音が響く。
と、同時に、三神先生は片手で私の視線を遮るように壁に手をあてると、もう片方の手はベッドに身を支えるように乗っている。

まるで、私に覆い被さるように。


「何を隠してる?」


逃がさないと、言っているかのように。



その瞳が、もう一度、私を捉えた時、観念したかのように、私の瞳からは、涙が溢れだす。

もう、誤魔化そうとしても、彼には見透かされてしまう。



もう、逃げられない。




「泣いて、るのか?」

「ごめんなさい……色々言ってしまったけど、私、三神先生の事、誤解してた……みたい」

「……」

「感じ悪いし、嫌みばかりで。つい、私も大人げなくつっかかってしまってたけど……だけど、ずっと先生を見ていて、わかったの。私の思い違いだったって……それで……あの……」

「……」

「だ、だから…… 」

「……それが、食事をまともに摂らない理由なのか?」

「と、摂らないんじゃなくて、喉を通らないの!!自分の気持ちに困惑して……。まさか、す、好きになるなんて、思ってもなかったから」

「……そんなくだらない事で」

「くだらないって、そんな言いか……」


!!!


その瞬間。

唇は、柔らかく温かいものに、塞がれていて、私は言葉を繋げる事が出来なかった。

ベッドに灯される小さな明かりが、先生の白衣を照らし、キスをされているんだという事に、やっと気付いた頃、私はそっと瞳を閉じる。

甘い感覚と、ほんのり香る薬品の匂い。

まるで、長湯にのぼせた子供のように、頭の奥がぼーっとなった。


「え?……あの……これは……??」

「担当医からの、特別処置。これで、食事は摂れるな?続き。知りたかったら、しっかり食べなさい」

そう、身体をゆっくり離すと、三神先生は病室を出て行った。


ますます眠れなくなった私を残して。


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