一難去って、またイチナン?
「黒田くん、ありがとう。助かったよ」
「どういたしまして」
黒田くんは口角をゆるりと上げて、腕を伸ばした。
私の顔へと、頰を目掛けて伸びた手は壁へと着地。黒田くんがもたれかかるように、私へと顔を寄せてくる。
後ろは壁、逃げ場はない。
いつもの黒田くんとは違う引き締まった表情。ふわっとした雰囲気はすっかり消えて、黒田くんが大きく逞しく感じられる。
ぽんと浮かんだ予感が、頭の中をぐるぐる巡り始めた。
「黒田くん?」
限りなく平静を装ったのに、声が震えてしまう。いつの間にか胸のざわめきが高まって、目を逸らせないほど。
「白石先輩、僕が守ってもいいですか?」
耳元で囁いた黒田くんの声は、今まで聞いたことのない柔らかな声。想像さえしなかった言葉が、私の思考を余計に混乱させる。
「黒田くん……」
「必ず、僕が守りますから」
力強い声で告げて、黒田くんが眼鏡を外した。私の顔を覗き込む黒い瞳が眩しくて、まともに見ていられない。
眼鏡を握った手が私の顎に触れた瞬間、とくんと胸の鼓動が震えて。
私は言葉を失くした。
- 完 -
