一難去って、またイチナン?
早く事務所へ戻りたくて、急いで廊下の角を曲がる。
すると視界に飛び込んだのは、黒田くん。
資料室のドアにもたれかかって、私を見てにこりと笑う。
どうして、ここに?
疑問をかき消すように、背後から会議室のドアが開く音が聴こえた。
青山主任が追いかけてくるかもしれない。
振り向こうとする私の腕を掴んで、黒田くんが資料室のドアを開く。するりと資料室の中へと促した黒田くんは、音を立てないようにドアを閉めて鍵をかけた。
流れるような動きに、私はただ身を任せるだけ。
黒田くんが私の唇に人差し指を立てて、眼鏡の奥の目を細める。
薄暗い資料室で息を潜める。
ドアの向こう側、青山主任の足音が遠ざかっていく。
足音が完全に聴こえなくなってから、ようやく気がついた。
胸のざわめきと、会議室で私の危機を助けてくれたのが黒田くんだということ。
資料室は普段施錠管理されている。
さっき黒田くんは鍵を使わずにドアを開けた。ドアに鍵がかかっていないことを知っていなければ、そんなこと考えもつかないだろう。
資料室の鍵を開けたのは、黒田くんに間違いない。