甘い誘惑~なんだかんだで彼は私の扱いが巧いらしい~
「ななな、何?何が違う、んですか―――!?」
「…でも必ずある筈なんだから!」
「ぅわわわ!」
ズボンのポケットに手を突っ込まれて山門が悲鳴を上げてジタバタする。
「ない……。まさか、ここ!?」
「っ、やめっ、萩原さんんんんん」
「あった―――!!!」
私は山門のスーツの内ポケットで見付けたモノを頭上に翳して咽び泣く。
チョコチップの水玉が愛らしいクッキー。
「……ぁ、それ…先ほど営業先の女子に貰ったヤツ…」
力ない声にチラリと視線を向けた私は薄ら眉を顰めた。
山門は乱れた衣類もそのままに赤い顔ではふはふ息をしながら椅子に弛緩している。
「いやね山門クンったら。営業なんだから身だしなみはきちんとしないと。」
「たった今萩原さんに襲われたんです!!」
「ていうか、山門クンってオバカなの!?チョコチップクッキーを内ポケットに入れるなんて!クッキーを愛らしい水玉に彩る大事なチョコが溶けたりでもしたらどーするの!?」
「もうイヤッ!」と顔面を掌で覆ってサメザメ泣いた男は徐に強気な顔で私を睨んだ。
「この際ですからストレートにお伺い致しますが、萩原さんはなんだってダイエットなんてしてるんですか!」
ぎくっ!
「え~?私ダイエットなんてぇ……」
「してるでしょ!?ごまかせると思ってるんですか?顔色悪いし、集中力に欠けるし、かと思えば『滅びよ、神!』とかいきなり理不尽な呪詛吐いたり!」
「…いやぁ、それはなんていうか。神様が私をもうちょっとスレンダーに造形してくれればこんな辛い思いしなくて良かったのになぁ~、とか…。」